キアロスタミ「友だちのうちはどこ?」他

公開映画

キアロスタミの傑作である「友だちのうちはどこ?」や「そして人生はつづく」が最初にソフト化されたのは、おそらく2001年ごろであったと記憶している。ところがそれらのDVDは、ほどなくして絶版となり、やがてその中古DVDには10万円前後の高値が付けられた。

どうして発売直後に買わなかったのか、という全宇宙よりも巨大な後悔を胸に抱きながら、そのプラチナ価格の中古DVDを買おうか買うまいか悩んだ回数は、筆者にとって10や20の少なさではない。

しかしである。2019年になって、これらの作品がニューマスター版として発売されたのである。DVDだけではなくブルーレイ版も発売となった。その一報を最初に聞いた(正確にはtwitterで目にした)とき、筆者は歓喜した。今度こそ絶対に買わねばならぬ。固く決意した。そして筆者は、それを無事に買うことができたのであった。めでたし、めでたし。

・・・ところがである。2020年6月、Amazonの中を散歩していた筆者は、ある一つのことに気がついた。これはどうしたことだ。早すぎるではないか。去年発売したばかりだというのに。

何が起きたのか。次の画像はリンクとなっているので、ぜひリンク先を見てほしい。

ご覧いただければわかる通りで、もうBOX版は在庫がない(2020年6月17日現在)のである。そのうち買おう、などとのんきなことを言ってまだ買っていない人は、また向こう20年買えなくなる可能性も否定できない状況が、早くも訪れているのである。ここだけの話、個人的にはこのことにビックリしすぎて、ある物をチビりそうになった(どうでもいい)。

「友だちのうちはどこ?」が日本で一般公開される1993年よりも更に前、1991年に山形国際ドキュメンタリー映画祭でキアロスタミの映画を見た蓮實重彦は、彼についてこう記した。

略)このイランの監督が途方もない才能の持主であることは間違いないと断言できる。(略)ロッセリーニのように単純で、ムンクのように残酷で、エルマンノ・オルミのように透明で、カサヴェテスのように大胆とでもいうほかはないただならぬ気配が漂っているのである。それでいて、もちろん、その誰にもキアロスタミは似ていたりはしない。

「映画巡礼」185~186頁

2016年、キアロスタミが亡くなった。日本全国の映画館で、彼を追悼するための特集上映が行われた。筆者も全国を駆け回ってキアロスタミを見まくった。もうスクリーンでこれらの作品を見られるのは最後かもしれない、そう思いながら。そして、やはりキアロスタミはすばらしかったのである。

 というわけで、まだキアロスタミの作品を見たことのない人は、せめてソフトでもいいのでご覧になっていただきたい。見ないで死ぬよりはずっといい。せっかく映画の存在する時代に生まれてきたのにキアロスタミを一度も見ないで死ぬなんて、言葉の真の意味で映画とは完全無縁の人だと自身を持って断言できる。幸い、BOXセットの在庫がないだけで、単品ずつなら、今はまだ購入可能である。今はまだ。

たくさんあるので、個人的にはキアロスタミ初心者には、最初に「友だちのうちはどこ?」次に「そして人生はつづく」を推薦しておこう。特に理由はないが。

この7作品以外にもソフト化されている作品はあるので、いろいろ探して観てほしいと思う。個人的には、キアロスタミが亡くなったときの全国の追悼上映でもほとんど(もしかすると完全に)無視された「明日へのチケット」というオムニバス映画のキアロスタミ編は本当にすばらしいと思う。

映画は、グリフィスに始まり、キアロスタミで終りを告げる。

                   ―ジャン・リュック・ゴダール

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