わたしは、「田舎暮らしの本」という雑誌が毎年発表している「『住みたい田舎』ベストランキング」の話題をネット上で目にすることがよくあります。
あのランキングについては前々から色々と気になることがあったので、この度初めて、そのランキングの発表号となる雑誌を購入してみました。
探し方が悪いのかAmazonでは見つからなかったので、楽天ブックスで買いました。
(それはどうでもいいですね)
で、読んでみて、個人的にはいろいろと衝撃を受けました。
わたしは、このランキングの名前が「住みたい田舎」ベストランキングということから、移住希望者等の人気のランキングなのかと勝手に思っていたのですが、実際には全然違っていました。
わたしが知らなかっただけでご存じの方も多いのかも知れませんが、このランキングは、市町村にアンケートをして、その結果を得点化して決めているのです。
アンケートに答えてくれているのが全国の全ての市町村ではなく、その中の645市町村なので、それ以外の回答していない市町村は必然的に絶対にランキングに入りません。全国の市町村の数は現在1700超らしいので645というのは全体の半分以下です。
どうやら田舎の定義は特に無いようで、わたしから見れば田舎とは思えない県庁所在地等の市も参加しているような都道府県もあれば多分本当に田舎なのだろうなと思われる市町村しか回答していない都道府県もあり、また、70以上の市町村が参加している都道府県もあれば2つ3つの市町村しか回答していない都道府県もあって、各地でこのアンケートに対する取り組みの熱量とでもいうべきものはマチマチといった感じです。公的なアンケートでもなんでもなく、たんなる1商用雑誌のアンケートなので当然といったところでしょう。
そしてアンケートの内容も全て雑誌の中で紹介されていました。それを読んでいると、わたしがもしどこかの市町村に転住するとして、その市町村の回答がYESでなくても別にいいと思えるような項目が結構多いのが気になりました。いや正直に言うと、個人的には「YESでなくても別にいい」というレベルを超えて、むしろ「YESが多い市町村が本当にいいと言えるのか?」とさえ思ってしまいました。
たとえばアンケートの項目はこんな感じです。
・土日や祝日にも移住相談を受け付ける窓口を常設している。
・古民家改修塾や農業塾など、継続参加できる体験プログラムを提供している。
・利用料無料のお試し暮らし施設がある。
・空き家バンクへの物件登録を積極的に働きかけている。
・移住者向けに住宅の購入費用を補助している。
こういった移住者歓迎の支援を積極的にしているかどうか、という内容の項目が、結構な数あります。ここがまず引っかかります。
こういう内容のアンケートの結果のランキングを「住みたい」というタイトルで表すのは、何か少しズレているような気がします。どちらかというと、実際に引っ越し終わった後というか、もう住んでいるという状態になった後の生活のナイスさの度合いが高そうだなあと期待できる土地が「住みたい」田舎、「住みたい」市町村のような気が個人的な言葉の感覚で言うとするのであります。このアンケートで分かるのは住みたいとかそういうことではなく、導入部分がとりあえず転住しやすくなっているとか、住む前に感じをつかみやすいとか、そういうことではないでしょうか。
「引っ越しやすい」けど「住みたくはない」ということは可能性としてありえるので、このアンケートの順位のランキング名を「住みたい」田舎ランキングだと言われると、単純に名前に違和感を感じると思うのはわたしだけでしょうか。・・・うーん、言いたいこと伝わらないかなあ。だれか共感してくれる人、この世にいないのでしょうか。
「住みたい」という言葉は本来なら、転住希望者側の感情から生まれる台詞のはずです。でも、内容を読んでみると実際には、これはあくまでも雑誌側視点の「転住してみてはどうですか、しやすそうですよ」ランキングとでも呼ぶべきランキングだったのです。もちろん、そういうランキングがこの世に存在しても一向に構いません。わたしの不満は、単純に名前が違うという1点だけです。その1点において、わたしは強烈な違和を覚えるのであります。
とはいえ住むことになったあとの生活に関わる内容のアンケートも全く無いわけではありません。例えば総合アンケート(「総合」以外には内容的に世代が絞られるアンケートがある)として108項目(総合以外も含めると全部で272項目もある。お役所の方々、ご苦労様です)あるのですが、内訳は、
①移住者の受け入れ実績・・・3項目
②移住者歓迎度・・・22項目
③定住促進の広報活動・・・6項目
④都市住民との交流・・・12項目
⑤住宅支援・・・19項目
⑥日常生活・・・18項目
⑦交通・・・6項目
⑧医療・・・6項目
⑨自然の豊かさ、伝統的な景観・文化の保全・・・16項目
といった感じです。①②③⑤は移住者受け入れのための積極的な施策があるかどうかを問うています。④も全ての項目ではありませんが、結構そういう内容の項目が多めです。やはり、そっち系の設問が割合としては多いと言わざるを得ません。
で、今回一番わたしが思ったのは、そういう施策が多い市町村というのは、そういう働きかけをしないと人が来ない、何かしないと人が減っていくからマズイと思っている市町村ではないだろうか、ということです。つまり、アンケートにこういう設問が多いと、ちょっと言葉が悪いかも知れませんが元々ある意味「住みたくない」土地であるがゆえに受け入れの姿勢に力を入れている市町村がランキングの上位に入りやすくなってしまうような気がするのです。移住相談会を頻繁に開いたり、移住者に引っ越し費用を補助したり、そういった類いの援助をしないといけない状況の市町村こそが上位に入りやすいのがこのランキングなのではないかという素朴な思いが、アンケート項目を読んでいると自然と頭の中に浮かんできて仕方がありません。そして最終的には悲しいことに、根本にそれなりの量の「住みたくない」要素を内包している市町村でないと、この「住みたい」ランキングの上位には入れないという矛盾した構造が(本当は見たくなかったのに)透けて見えてきて、何だか雑誌を読んでいると、なんとも言えない暗い感情になってしまったのです。
具体的な市町村名は出しませんが、「ここが人気のはずがない」とわたしは個人的に思える(名前を出さなくても失礼で本当にすみません)店もほとんどない何もないとある過疎地が、なかなかの高順位に入っているというこれも個人的には驚きの結果も、今回このアンケート内容を読んだおかげである意味納得できました。
ちなみに⑥以降のアンケート内容も個人的には結構どうでもいい設問が少なくありません。
たとえば⑥の「日常生活」の設問には
・コンビニがある。
・映画館がある。
などなど、わたしも結構な強度でYESであってほしいと思えるものもいくつかはありますが、しかし、
・有機農業が盛んである。
・米どころである。
・果樹栽培が盛んである。
など、YESでなくても全然許せる設問が少なくありません。
続いて⑦の「交通」は、設問自体が6つしかなく、その半分以上は
・高速バスのバス停がある。
・ペーパードライバー教習の費用を補助している。
など、やはりこれもあくまでも個人的に言えばどうでもいい内容でした。
⑧の「医療」は一応YESが多い方がそれに越したことはないかなという設問が多めでしたが、⑨の「自然の豊かさ、伝統的な景観・文化の保全」も、あくまでも個人的価値観に基づいて言いますと、ほぼ全ての項目がわりかしどうでもいいような気がしました。もしも宇都宮市とか長野市とか松山市とかそういう個人的には結構都会に思える市町村がアンケートに参加していなければ、頭が「ここで言っている田舎とは東京の真ん中以外日本中全部というわけではなく、そういう意味の本当の田舎か」というモードになるので、住みたい「田舎」のランキングなのだから「自然の豊かさ」等は高評価するよ、という図式は十分納得できるのですが、このアンケート対象は全然そうではないので、まあまあの都市も対象なのにそういう内容の項目のYESが多いと高順位になるというのは結局これはどう見ればいいランキングなのか困惑する、という印象です。
というわけでまとめますと、断片的に過年度のこのアンケートの結果を見聞きしていたことも今まであったわけですが、その結果が実は、もしも文字通りに「住みたい」のランキングだと捉えて読んでしまうと、想像以上にまるで参考にならないランキングだったということがわかりました。
たいへん勉強になりました。ありがとうございました。雑誌を買って本当に良かったです。みなさんもこの記事の上の方にあるリンクから飛んでいって、ぜひ「田舎暮らしの本」をご購入下さい。おすすめです!(何かを恐れて最後にゴマをする)
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